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射出成形における糸引きとは? | 主な発生要因とそれぞれの対策

射出成形における糸引きとは? | 主な発生要因とそれぞれの対策

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糸引きとは

射出成形加工における、糸引きとは成形不良の一つで、型開き時、スプルー切れ、ゲート切れが悪く、糸状に伸びている状態です。 糸引きが問題になる理由は、糸引きが製品に付着したり、次ショットにインサートするなど、製品の外観不良を引き起こす点にあります。 また、連続的に糸引きを金型に挟み込むことで、金型の破損につながることもあります。

糸引き発生の要因

射出成形加工において、糸引きの発生要因は下記の通りです。

(ⅰ)スプルーの形状等

スプルーの形状やスプルーの素材によって糸引きが発生することがあります。 ・スプル径が太く、ノズルタッチ断面積が大きい ・スプルーブッシュ部の冷却効率が悪く十分冷却されない と言ったケースでは注意が必要です。

(ⅱ)ノズル温度と金型の温度差が小さい

金型とノズルがタッチする箇所で糸引きは発生します。これは、冷たい金型と熱いノズルの温度差が小さく、部分的に固化していないことが要因です。型開きする時に、いかにスプルーの切れをよくするかがポイントとなります。ノズル温度が高いと、糸引きが強くなりやすいです。

(ⅲ)サックバック、背圧の過不足

射出成形の工程において、冷却時間中に次ショットの計量をします。スクリュー回転に適度な背圧を加えることで、スクリュー前方に計量される溶融樹脂は、均一に混練されます。計量完了位置まで計量しただけでは、スクリュー先端には圧力がかかっている状態です。この圧力を抜くために、無回転後退(サックバック)をします。サックバックの量でスクリュー先端の圧力を調節します。 この時、必要以上に高い背圧は、スクリュー先端にかかる圧力を高め、型開き時に糸引きの起因になります。適正な背圧でも、サックバック量が少ないことで、糸引きが発生することがあります。

(ⅳ)HR温度とキャビティ部の温度差が小さい

HR金型は、ノズル温度同様に、キャビティ部とHR部の温度差が小さいことにより、糸引きが発生します。 HRゲート部の温度を下げることで改善する傾向がありますが、下げすぎるとHRゲート部が樹脂詰まりを起こし、HRマニホールド部のオーバーパック原因になるため、慎重に設定しましょう。

(ⅴ)原料

糸引きは、原料の種類やグレードに大きく影響されます。 機能優先した添加物の多い原料や、流動性に特化したグレードなどは、成形条件で許容できないことがあります。成形条件での改善は難しいため、現状を客先と共有し、糸引きを許容するか、別原料導入を検討するなど、抜本的な変更が必要です。

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糸引きの種類と発生しやすい場所

糸引きは、ノズルとスプルー間、ゲート部において、型開き動作に合わせて発生します。

(ⅰ)スプルー

糸引きは、スプルーに発生します。金型とノズルがタッチしている箇所で、糸引きが起こります。

(ⅱ)HR金型フルホット

フルホットのHR金型のゲートは、ダイレクトゲートかバルブゲートになります。このゲート部に糸引きが発生します。

(ⅲ)HR金型セミホット セミホットHRは、多数のスプルーを持ちます。各スプルーにおいて、糸引きが発生します。

##糸引き予防・対策の基本 上述の代表的な糸引きの発生要因それぞれについて、対策案として以下が挙げられます。

(ⅰ)「スプルー」そのものを見直す スプルーの形状によって糸引きが発生してしまう時は、ノズルの温度を下げても効果は少ないです。 金型スプルーブッシュの形状変更、金型スプルー部を放熱しやすい素材に変更、金型スプルー部だけ金型温度調節機の温度設定を変更するなどが有効です。

金型とノズル間に「糸引き防止キャップ」を取り付け、強制的にキレ易くすることも有効です。

(ⅱ)「ノズル温度」をしっかり確認する

糸引きには、ノズル温度を下げることが効果的です。 ノズル温度が必要以上に高いと、金型とノズルのタッチ部から糸引きが発生します。 ノズルの温度を下げることで、型開き時のスプルーの切れ方が変化します。 ノズル温度を下げすぎると、次ショット充填時に冷え固まってノズル詰まりを起こすことがあります。

(ⅲ)「サックバック・背圧」の設定を見直す

計量時の背圧を下げる、計量後のサックバック量を多くすることが効果的です。 スクリュー先端にかかる圧力を減らすことで、糸引きが改善することがあります。 ただし、背圧を下げると計量された樹脂密度は下がります。重量や寸法に影響します。 また、サックバックを多く引くことで、空気の巻き込みは多くなります。シルバーや気泡が発生しやすくなります。 糸引きを改善したことで別の不良が発生していないか、注意が必要です。

(ⅳ)「HR(ゲート・スプルー部)温度」を調整する

金型とノズル間で糸引きが発生するのと同様に、HRゲート・スプルー部とキャビティ間の温度差が小さいことで糸引きが発生します。

HR金型フルホットにおいては、ダイレクトゲート部、バルブゲート部の設定温度、HR金型セミホットなら、各スプルーとHRコンタクトブッシュ部の設定温度に注意が必要です。 これらHRの温度を調整することで改善が期待できます。 また、セミホット金型は、コンタクトブッシュの形状を変更することで切れが改善します。 ノズルの温度設定と同様に、下げすぎると次ショットで詰まり、HRマニホールド部のオーバーパックに至る可能性があります。

(ⅴ)「ニードル式シャットオフノズル」を活用する

ノズルを、ニードルバルブで開閉できるシャットオフノズルに置き換えるのも改善の一手です。ノズル先端を閉められるので、スプルーの切れが良くなることが期待できます。反面、ノズル先端の構造が複雑になるので、練り込み異物が発生しやすくなります。

##糸引き発生を的確に検知するために ここまでで、糸引き発生の主な要因とそれぞれへの発生対策について触れました。しかし、どれだけ対策を行っても完全に糸引き発生をゼロにするのは難しいものです。糸引き発生を的確に検知するために、以下の各タイミングで特に注意しましょう。

(ⅰ)初期検査

立ち上げ時の初期検査が重要です。基本的に糸引きは、発生したらそのまま放置し続けても直りません。稼働中ひたすら不良品を排出してしまうことにつながりかねません。

(ⅱ)タイムサンプル

スタートから一定時間経過後、加熱筒、金型の温度が安定します。 立ち上げ時には、糸引きが出ていなかったのに、外気温等の各種温度変化によって出始めることがあります。 定期的にタイムサンプルを確認しましょう。

(ⅲ)原料ロット変更時

同一原料でも、原料ロットが違うと、MFR(樹脂の流れやすさメルトフローレート)が異なることがあります。特に加熱筒温度を推奨温度より高く設定している成形品は、その影響を大きく受けます。原料ロットの変更時は、注意が必要です。

まとめ

糸引きについて、特に射出成形工場における不良対策・生産性の改善を考える際に注意しておきたいポイントをまとめました。 糸引きは、金型におけるノズル、ゲート部の温度差が原因です。 温度を調整する。糸引き防止キャップや、ニードル式シャットオフノズルを使用するなどして予防しましょう。 糸引きを見逃すことなく、より高い成形加工技術の確立を目指しましょう。