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射出成形におけるしみとは?主な発生要因とそれぞれの対策

射出成形におけるしみとは?主な発生要因とそれぞれの対策

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しみとは

しみとは、金型キャビティー内にて油分、水分、ガスなどが付着することで、成形品の 外観に汚れが転写される外観不良です。金型キャビティー内で一度付着すると、同じ箇所で発生するのが特徴です。

また、成形品の表面に転写されたしみは、後から拭いても落ちないため、一度生産を中断して、しみの要因を取り除くことが重要です。 後述しますが、しみは、金型や装置に起因する事象です。発生前に、予防することがポイントとなります。

「しみ」が発生しやすい箇所

金型の構造により異なりますが、キャビティー側では、スライド摺動部、コア側では、 エジェクターピン、油圧入れ子摺動部などが挙げられます。

【油分】がしみになって発生する箇所

  • エジェクターピン跡
  • ルーズコア跡
  • 入れ子割面跡

【水分】がしみになって発生する箇所

  • 入れ子部
  • 冷却タンク部

【ガス】がしみになって発生する箇所

  • 最終充填部
  • 細いリブの先端部
  • ガスベント吹き溜まり部

【防錆剤】がしみになって発生する箇所

    立ち上げ間もなくの成形品外観全体
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しみ発生の要因

射出成形加工におけるしみの発生要因は、大きく分けて金型と設備の2つです。

金型に起因するしみ

金型が要因で、しみになる場合は下記の3通りあります。

潤滑剤が原因のしみと対策

金型は固定側と可動側に、2分割されます。何千、何万回も開閉することから耐久性が求められます。そのため、摺動部への潤滑剤塗布は必須です。ですが、その使用が「しみ」発生の要因となるケースがあります。潤滑剤の種類は、箇所・用途によって変わり、それぞれについて考慮が必要なポイントがあります。

グリースのしみで考慮すべきこと

ガイドピンは、金型の開閉時に固定側と可動側の位置を合うようにするピンです。ブッシュは、ガイドピンを受け入れます。 このガイドピンには、ブラシを用いてグリースを塗布しますが、必要以上にグリースを塗布すると、ガイドピンがガイドブッシュに出入りする時、グリースがキャビティー内に飛散し、成形品に転写して、しみとなります。グリースは、必要以上に塗布しないことが重要です。

また、金型開閉時、ガイドピンとガイドブッシュの合わせ位置で、金型開閉速度を低速に することで、グリースの飛散を低減します。

フッ素系潤滑剤のしみで考慮すべきこと

金型から成形品を離型する際に動くエジェクターピンには、フッ素系潤滑剤を使用します。潤滑剤塗布の際は、ウエスやコットンを用いて薄く塗布します。

エジェクターピンは製品面に接しているため、フッ素系潤滑剤を必要以上に塗布すると、 そのまま製品面に出てしまい、しみにつながります。エジェクターピンがかじらない程度の最小限の量と、塗布の頻度を管理することがポイントです。

ガスが原因のしみと対策

何千、何万ショットと成形すると、樹脂から出るガスにより、キャビティー内に汚れが 発生します。特に最終充填部や、ガスベンドの吹き溜まり部は汚れがたまりやすく転写して、しみとなります。 蓄積したガス汚れが、しみ出して来る前に、定期的な金型メンテナンスを行いましょう。

防錆剤が原因のしみと対策

防錆剤は、金型を錆から守るために使用します。スプレータイプが一般的です。成形終了毎や金型オーバーホール時に、金型製品面全体に塗布します。

成形立上げ前には、パーツクリーナーや洗浄剤をウエスコットンに染み込ませて丁寧に塗布した防錆剤を落としていきます。 この時、防錆剤の拭き残しがあると転写して、しみとなります。防錆剤を隅々まで丁寧に拭き取ることで予防します。

スプレータイプの洗浄剤を直接、金型表面に吹き付けると、入れ子の隙間に油分が入り込み、しみの原因になるので注意が必要です。

また、長期保管時に使用する固形防錆剤は、油分を含みますので、生産前に除去することが重要です。

固形防錆剤を拭き取る時は、金型表面にキズを付けないように十分に配慮した上で、段階を踏んで落とします。

  1. 乾いたウエスである程度、拭き取る。
  2. ウエスに洗浄剤を含ませ拭き取る。
  3. 油分が無くなるまで、ウエスまたはコットンを用いて仕上げる。

なお、長期保管後に生産する際は、生産前にオーバーホールすることで、立ち上げ時の防錆剤残りを大幅に削減できます。

設備に起因するしみ

成形条件が要因で、しみになる場合は下記の3つが挙げられます。

チラー結露が原因のしみと対策

チラー(=冷却水循環装置)は、冷却温度の安定及び冷却スピードを上げ、生産性を向上する目的として使用されます。金型は成形品の形状を作る目的であると共に、熱交換器の役目があります。 チラーは、15〜30℃の温度設定が可能です。そのため、特に夏は外気温との差により、金型が結露しやすくなります。。この時、水滴がキャビティー内に入り込み転写して、しみとなります。

外気温とチラー温度の温度差を管理して、定期的に金型の結露状態を確認することや生産停止時に、停止前にチラー温度を上げて、常温に戻してから停止することで結露を予防します。

なお、夏場の停電や、緊急停止による金型の結露は、予防ができません。その場合は、金型表面についた結露をエアーやウエスを使用し十分に除去する必要が出てきます。 特に製品面の結露はそのまま転写されしみになりますので、しっかりと拭き取ります。 完璧な除去は困難なため、精密金型は、電気の復旧後再稼働せず、そのままオーバーホールが望ましいです。

飛散した水付着が原因のしみと対策

金型交換をする時に、金型に付属されている水管を取り外す作業があります。この作業時に操作を誤まると、キャビティー内に水滴が飛散し、しみにつながります。

水管を脱着する際の留意点としては、金型を閉めた状態で行うことや、水管が上下に付属している場合は下側から外すと言ったことが挙げられます。

飛散してしまった水付着に注意が必要なシーンとしては、段取り替えや、金型オーバーホール、金型保管時があります。金型の水管、水口ニップルをぶつけて破損してしまい、生産時、気づかず通水すると、破損箇所から水が漏れてしまいます。また、経年劣化により水管、水口ニップルから、水が漏れることがあります。

立ち上げ時は、チラー・温調機を、1経路ずつ、半開から確認することで、水管トラブルの水漏れを最小限にすることができます。また、大きい成形機、金型は、2人で声掛けして、水漏れの確認し合うことが重要です。

取り出し機(グリース滴下インサート)が原因のしみと対策

取り出し機は、サーボモーターを介して各軸が作動します。各軸にはレールガイドがあります。円滑に動作させるために、グリースを定期的に補充します。生産中に取り出し機が前後左右動作する中で、金型が開いたタイミングで、グリースがキャビティー内に滴下飛散し、製品に転写して、しみとなります。成形立上げ時の前に、各レールガイドを目視にて確認することが大切となります。

まとめ

しみについて、不良発生要因及び原因、不良対策についておまとめしました。しみは、金型、設備の双方に要因を考えうる事象です。それぞれの要因を1つ1つ試すことで、改善が期待できます。しみを見逃すことなく、高い成形加工技術の確立をめざしましょう。