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熱硬化性樹脂とは

熱硬化性樹脂とは

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熱硬化性樹脂とは

熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化し、元に戻らない性質のある樹脂です。化学反応によって高分子化合物が形成されるため、成形後に硬化が進みます。

熱硬化性樹脂を、身近な物で例えると、お菓子のクッキーです。

1度硬化したものが、戻らない点が似ています。

熱硬化性樹脂は、耐熱性や機械的強度が極めて高い特徴があります。

耐熱性や強度を求められる電気部品や家電製品などに使用されており、私たちの身の回りで無くてはならない素材です。

熱可塑性樹脂の種類・特徴

代表的な熱硬化性樹脂には下記があります。

フェノール樹脂(PF)

特徴 

耐熱性や、耐寒性、機械的特性、電気絶縁性に優れる樹脂です。加工性が良いことから、工業部品として使用されます。

用途

自動車のエンジン周辺部品や、クラッチ部品、ブレーキ部品、配電盤ブレーカー、電球の

ソケット部品、プリント配線基板、絶縁スペーサーなどです。

エポキシ樹脂(EP)

特徴

電気的性質や寸法変化に優れる樹脂です。流動性が良いことから、寸法精度が求められる製品や、インサート製品として、電気、機械部品として使用されます。

用途

パソコンや、ゲーム機、携帯電話の電気、電子部品、絶縁ボード、航空機器の制御系部品

などです。

ポリウレタン樹脂(PUR)

特徴

耐油性や耐熱性が良く、耐水性に優れる樹脂です。

シール性が良いことから、金属製の接続部分として使用されます。

用途

オイルシールや、パッキン、振動ゴム、Oリングなどです。

ユリア樹脂(UF)

特徴

耐熱性と耐溶剤性が良く、難燃性のある樹脂です。着色性が高いことから、二次加工で着色がある製品に使用されます。

よう途

麻雀牌や、将棋の駒、化粧品、コップ、子供用容器、医薬品の容器などです。

メラミン樹脂(MF)

特徴

耐水性や耐薬品性が良く、表面硬度が高い樹脂です。キズがつきにくく、衛生上無害であることから、食器類に使用されます。

用途

お皿や、茶碗、各種食器類、テーブルの化粧板、化粧品の瓶、キャップなどです。

代表的な用途

先述の通り、自動車部品から食卓で使用される食器類まで、多岐に使用されています。また、熱硬化性樹脂は耐久性に優れるため、航空宇宙産業や軍事産業でも使用されています。

用途 製品例
自動車部品 エンジン周辺の部品、吸気、排気部品、クラッチ部品、ブレーキ部品
工業部品 オイルシール、パッキン、振動ゴム、Oリング
電気部品 配電盤ブレーカー、電球のソケット部品、プリント配線基盤
家電製品 パソコン、ゲーム機、携帯電話の部品、絶縁ボード
一般雑貨品 麻雀牌、将棋の駒、化粧品、コップ、子供用容器
食器製品 お皿、茶碗、各種食器類、テーブルの化粧板

熱硬化性樹脂の成形法

熱硬化性樹は、製品ごとに様々な方法で加工されます。代表的な成形法をご紹介します。

射出成形法

シリンダーにて、50℃前後で加熱した樹脂を、180℃前後の金型に流し込み、冷却して固化させます。特に高い射出圧力は必要は無いですが、固化するまでに時間がかかるので、サイクルタイムは長くなります。

射出成形法(インサート成形)

インサート成形とは、あらかじめ金型に金具を入れておき、樹脂を被せる成形法です。

ねじを埋め込んで、組み立てを容易にしたり、金具を入れることで製品の強度を向上させる目的があります。

圧縮成形法

コンプレッション成形法

ある程度余熱した樹脂を、金型のキャビティーにのせ、プレスして固化させます。

寸法公差が厳しい製品には適していなく、浴槽などの大型で肉厚な製品に適しています。

サイクルタイムは長いですが、1回のプレスで形状ができます。

成形後に二次加工として、バリ取り作業が必要となります。

トランスファー成形法

ある程度余熱した樹脂を、プレスしてダイレクトゲートのような細い湯道を通過後、キャビティー内に押し込んで、金型で固化させる成形法です。

精密な製品、寸法公差が求められる製品に適しています。

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熱硬化性樹脂のメリット・デメリット

熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂では得られない耐熱性や、高強度の製品を作ることができます。各製品に対応した成形法で、大型製品から精密部品まで幅広く成形できます。

熱硬化性樹脂のメリット

  • 機械的特性が高い
  • 耐熱、耐寒性に優れる
  • 電気絶縁性が良い
  • 耐油性が良い
  • 耐水性が良い
  • 耐溶剤性が良い
  • 耐薬品性が良い
  • 曲げ、歪曲のクリープ性が良い
  • 成形法が多種である

熱硬化性樹脂のデメリット

  • 成形時のサイクルタイムが長い
  • バリが出やすく、二次加工が必要である
  • 加工後に硬化が進むため再成形ができない
  • 環境負荷が大きくリサイクルに適していない
  • 製造コストが高い

熱硬化性樹脂を取り巻く課題とトレンド

熱硬化性樹脂は、私たちの生活に欠かせない身近な素材です。しかし、熱可塑性樹脂とは異なり、リサイクルに適していないデメリットもあります。

サーマルリサイクル

熱硬化性樹脂は、架橋結合といわれる強固な結合のため、再度加熱しても軟化溶融しません。また、樹脂の中には添加剤が含まれているため、分類仕分けができません。

そのため、熱硬化性樹脂のリサイクル利用は、廃棄物を燃やすときの熱エネルギーとして、熱硬化性樹脂を燃料として利用する形で行われます。この熱エネルギーとして回収する方法をサーマルリサイクルと呼びます。

2018年時点では、国内の廃プラスチックのうち、56%はこのサーマルリサイクルによって再利用されているとされています。(*1)

燃やすのはリサイクルではないのでは?と疑問に感じる方も多いかもしれませんが、資源の少ない日本では廃プラのサーマルリサイクルは貴重なエネルギー源です。年間498万トン(2018年)もの廃プラスチックが火力発電に使用されています。

ケミカルリサイクル

上述の通り、熱硬化性樹脂は、強固な結合のため一度成形したら元の樹脂には戻せません。

しかし、成形工程で「シリルエーテルモノマー」と呼ばれる物質を加えることで、強度はそのまま保持でき、かつ、出来上がった成形品をフッ化物イオンで分解し、可溶性粉末にできるようになるという研究も出てきています。(*2)まだ研究段階のため、コストや汎用化など課題はありますが、サステナブルな取り組みは進んでいます。

まとめ

ここまでで触れた通り、熱硬化性樹脂は、加熱することで固化し、元に戻らない特性から、自動車部品から食器製品まで、多岐に使用されています。

多種多様な成形法により、大型製品から精密部品まで様々な製品を作成することが可能です。その一方、再形成を目的に熱硬化性プラスチックを加熱しても、再形成する前に燃えてしまうため、製造後の形状変更が難しく、環境負荷が大きいといった課題もあります。環境面への配慮という観点からは、素材選定には注意が必要であり、リサイクル方法の確立にも取り組む必要があります。熱硬化性樹脂の特徴を良く理解して、日々の業務に活かしましょう。