PPE樹脂は、他の樹脂と合成され(アロイ化)、変性PPEとして使用されます。PPE単体では流動性が悪いため、PS系、PA系、PP系の樹脂とアロイ化することで、流動性が改善し、その他の様々な特性も強化されます。製品名では、アメリカSABIC社のノリルが有名です。
変性PPE樹脂は、高強度、耐衝撃性、耐薬品性に優れるエンプラであり、汎用エンプラの中で比重が最も小さいことから、軽量化、コストダウン目的で採用されます。また、ガラス繊維(20%)を含有し、物性を強化する目的で採用される変性PPEもあります。
一般的な変性PPE樹脂の特性は、下記の通りです。
・耐熱性に優れる
・耐衝撃に優れる
・電気特性に優れる
・自己消火性が高い
・寸法安定性が良い
・吸水性が低い
変性PPE樹脂を射出成形することで生産される、代表的な製品には下記があります。
自動車や、OA機器、電化部品、インフラ部品まで、多岐に使用されています。
変性PPE樹脂は、高強度で寸法安定性がよいことから、主に機能部品として使用されます。比重がエンプラの中で最も小さいため、製造コストをおさえられるメリットがあります。自動車の鋼板ボディの代替材として利用されたり、ケースや、カバー、コネクタなどの原料として、さまざまな業界で使われています。
変性PPE樹脂の成形加工時のポイントは、原料準備と金型のガスメンテナンスです。
変性PPE樹脂は、PS、PA、PPTなどさまざまな樹脂とアロイ化された樹脂のため、
その特性はグレードによって大きく異なります。
原料メーカーが推奨する予備乾燥温度、時間を厳守することがポイントです。
【予備乾燥例】
また、吸湿しやすいグレードの変性PPE樹脂は、成形機直付けのホッパードライヤーや、乾燥性能が高い真空乾燥機や除湿乾燥機の使用が有効です。
変性PPE樹脂は、エンプラの中では、成形加工性・寸法安定性が良く、成形中のトラブルが比較的少ない樹脂です。
ただし、生産ショット数が増えていくと、PLガスベント、EJピン、入れ子のガス詰まりにより、ショートや湯ジワ、重量基準NGなど、さまざまなトラブルが発生します。
日常点検とメンテナンスを基本ルーティンとして行います。
また、定期メンテナンスの規定ショットを決めて、不良が発生する前に、金型オーバーホールを実施しましょう。
変則PPE樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。
変性PPE樹脂の成形時、原料ロットの変更でMFR(溶融時の流れ易さ)が悪くなったり、累計ショット数が多くなることで、金型内のガス抜けが悪くなります。
その影響で、充填末端において、ショートや、湯ジワが発生します。
現ロットでは不良がなく成形できている状況でも、新ロットになった途端に不良が発生することがあります。この原料ロット変更に起因するショート・湯ジワの発生に関しては、原料入荷時に付属している原料ロットの物性試験結果(MFR)をもとに、流動予測はできますが、事前の対処は難しいです。
原料ロットの変更後は、成形品のサンプルを採取し、外観、重量、寸法が基準を満たしているかを念入りに検査しましょう。ただし、成形品は採取後24時間からそれ以上の時間をかけて収縮するので、収縮分を加味して寸法の合否判定をしましょう。何日何時、どの梱包箱から、原料ロットが変更になったかトレースできるように管理することがポイントです。
累計ショットが増えていくことで、金型内のガスベントが詰まり、ガス抜けが悪くなっていきます。
日常点検・メンテナンスによって、金型PLや、スライド、EJピンのガス汚れの除去が効果的です。
1日毎、1ロット毎、3,000ショット毎など、ガス抜けが悪くなる前に、メンテナンスすることがポイントです。
日常点検・メンテナンスをしても、ガス抜けがすぐに悪くなってしまう場合は、金型オーバーホールをして、ガス汚れをリセットしましょう。
成形品の流動末端周辺や、ガス抜けの悪い箇所において、製品表面がふくれることがあります。
ガス抜けがうまくできず、成形品の内側にガスが残ってしまうことが原因です。変性PPE樹脂のうち、特にガスの発生しやすいグレードを扱うときは注意が必要です。
射出成形速度が速いと、ガスが逃げるより先に樹脂が充填されてしまい、成形品の中にガスが取り残され、ふくれてしまいます。流動末端周辺の射出速度を下げて、ガスがうまく逃げるように調整します。
ガス抜けの悪い箇所のふくれは、袋小路になったガスが成形品の内側に取り残されることが原因です。金型ガスベントの詰まりを清掃することで、改善が見込めます。
成形品のリブや、ゲート裏、角など、肉厚部は樹脂の収縮によって成形品の表面に凹み(ひけ)が発生することがあります。ひけは、冷却時間不足、保圧不足が原因です。ひけ部の調整は、複合的に対策します。
バリと重量の限度内に納まる範囲内で、保圧と保圧時間を増やしひけが改善するか確認してみるようにしましょう。その際、保圧の多段制御を使用して、ひけの限度を調整していきます。
寸法が基準に納まる範囲内で、冷却時間を長くしてみたり、金型温度を下げて調整していきます。
保圧を上げると、バリが出やすくなります。
冷却時間を伸ばしたり、金型温度を下げると、成形品は、収縮しづらくなり、寸法は大きくなります。
また、冷却時間はそのまま1サイクル時間に影響します。
それぞれのパラメーターを最適化する複合的な条件調整が必要です。
変性PPE樹脂は、成形加工性・寸法性が良いことから、構造部品として
幅広く使用されています。
変性PPE樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。
上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。