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PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)物性と用途、取扱い方法について解説

PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)物性と用途、取扱い方法について解説

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PEEK樹脂とは

PEEK樹脂は、機械強度や、耐熱性、難燃性を兼ね備えた樹脂です。また軽量でありながら、硬化や割れが発生しにくい特性を活かし、航空機や、医療機器部品、自動車部品に使用されます。高強度の環境下での耐久性が高い樹脂であるため、原料価格が非常に高く、より質の高い製造方法が求められます。

一般的なPEEK樹脂の特性は、下記の通りです。

  • 機械強度に優れる
  • 耐熱性に優れる
  • 難燃性がある
  • 軽量である
  • 耐薬品性に優れる

性質 / 特性

性質 / 特徴 備考 備考
分子構造 結晶性樹脂
収縮率 大きい 0.7~19%
灰色
ガラス転移温度 低い 143℃
耐衝撃性 強い
耐熱性 260℃
耐候性 劣る
電気的性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 濃硫酸には侵される
寸法安定性 良い
機械特性 強い
成形品の外観 良い

代表的な用途

PEEK樹脂は、特に優れた物性があることから、保安部品や高負荷のかかる箇所などに使用されます。射出成形加工で使用されるPEEK樹脂は、下記の通りです。

航空機から自動車業界において、下記の通りPEEK樹脂が導入されています。

  • 航空機部品:航空機用コネクター、タービンブレード、配管パイプ
  • 医療機器部品:歯科用器具部品、内視鏡先端部品、チューブのジョイント、コネクタ
  • 自動車部品:エンジン周辺の部品、クラッチ部品、アクチュエーター、ギヤ

PEEK樹脂の成形加工時におけるポイント

PEEK樹脂の加工ポイントは、下記の3つになります。

  • 原料の予備乾燥
  • 加熱筒、金型温度設定
  • リサイクル・粉砕材の使用

原料の予備乾燥

PEEK樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。

予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。

  • 乾燥温度:150℃
  • 乾燥時間:8時間

なお、予備換装を行う際の注意点として、下記が挙げられます。

  • ホッパーでの吸湿を防ぐ為、箱型乾燥機は不向きです。
  • 湿気の多い環境では、除湿乾燥機や、真空乾燥機など、乾燥能力の高い装置が有効です。

加熱筒温度、金型温度設定

加熱筒温度

加熱筒温度は、一般的に 400℃前後に設定します。

かなりの高温になりますので、パージによる飛散や、ダンゴの取り扱いには十分注意が必要です。パージカバーをしっかりと閉めてパージ作業をすると共に、フェイスシールドや皮手袋の保護具を、必要に応じて着用します。

金型温度

成形品の形状によりますが金型温度は200℃前後に設定します。

金型温度の安定や、上昇に時間を要する為、カートリッジヒーターで、金型の温度を調節します。

リサイクル・粉砕材の使用

PEEK樹脂の、特徴として材料が高価であることが挙げられます。

10,000円/Kg以上する高級な材料ですので、使用する際は材料ロスを最小限に留める必要があります。

PEEK樹脂取り扱いで考慮すべきことを、下記に紹介していきます。

前提として、品質不良は出さない

品質不良は材料の無駄に直結します。立ち上げ時の捨てショットが最小になるように、手早く

成形条件を調整します。

量産中は、品質監視モニターにて、上限、下限の範囲を設定し、監視範囲外の製品が発生したら、すぐに対処することがポイントです。

立上げ品や、不良品は粉砕して再利用する

立上げ品や、不良品は、粉砕機で粉砕し再利用できます。大きい成形品は粉砕機の間口に入らないので、電動ジグソー等で切断してから粉砕します。

また、ランナーも同様に粉砕することで、リサイクルは可能です。

PEEK樹脂は、粉砕材として使用できますが、一度、加熱されると物性が劣ります。

粉砕材を使用する場合は、必ず客先の承認が必要です。また、バージン材との配合比についても必ず確認し、PEEK樹脂本来の物性が保てているか、品質確認を行います。

成形不良時対策

PEEK樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。

鼻タレの原因と対策

鼻タレとは、ノズルの先から樹脂が垂れてしまう事象です。

原因と対策方法は、下記の通りです。

加熱筒温度設定で考慮すべきこと

ノズルの温度は加熱筒ゾーンの中でも、1番温度がばらつくことから、鼻タレの原因になります。

対策方法は、ノズルの温度は、メーカー推奨の温度の1番低い温度から設定します。

生産中にノズル詰まりが発生する場合は、5℃刻みで温度を上げていき、鼻タレの挙動を確認します。またノズルヒーターバンドを、ノズルの全長幅にすることで温度が安定します。

サックバック量で考慮すべきこと

ノズル先端の内圧が高いことで、鼻タレの原因になります。

対策方法は、計量後のサックバック量を調整することで、強制的に鼻タレを改善します。

1mmずつ増やしていくことがポイントです。

背圧設定で考慮すべきこと

背圧が高いと、スクリュー先端にある樹脂に圧力がかかり、鼻タレの原因になります。

対策方法は、背圧を低くすることで、スクリュー先端にある樹脂への圧力を軽減させることができ、鼻タレが改善します。

ヤケの原因と対策

ヤケとは、溶融樹脂がキャビティー内に充填される時に、キャビティー内に残存している空気が

圧縮、燃焼し、成形品に黒く焦げた模様ができる事象です。

最終充填部や、ガス抜けの悪い部分に発生します。

原因と対策方法は、下記の通りです。

ガスベンドの掃除で考慮すべきこと

金型の最終充填部のガスベンドにガスが蓄積していくと、ヤケの原因になります。

対策方法は、日常点検において、ヤケ不良が発生する前に、メンテナンスすることで改善します。ガスベントの定期メンテナンスをしていない場合は、金型オーバーホールが有効です。

射出速度で考慮すべきこと

射出速度が速いと、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ヤケの原因になります。

対策方法は、射出速度を下げることで、キャビティー内の流動性が下がり、ガスが逃げる余裕が生まれます。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。

加熱筒温度設定で考慮すべきこと

加熱筒温度が高いと、樹脂粘度が下がり、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ヤケの原因になります。

対策方法は、樹脂温度を下げることで、樹脂粘度が上がり、流れにくくなります。 

流れにくくなった分、ガスが抜けるまでの余裕がうまれ、ガス抜けが改善します。

バリの原因と対策

バリとは、金型が合わさるパーティングラインや、スライド入れ子、EJピン上に、樹脂がはみ出だす事象です。原因と対策方法は、下記の通りです。

保圧力で考慮すべきこと

保圧力が高いことで、必要以上の樹脂が充填され、バリの原因になります

対策方法は、過充填が原因のバリに関しては、保圧を下げることで改善します。

注意点としては、流動末端部がショートになることや、規格外の重量不足不良になる可能性があります。

射出圧力で考慮すべきこと

射出圧力が高いことで、バリの原因になります。対策方法は、製品のバリ発生箇所の充填圧力を弱めることで改善します。多段制御が有効です。

パーティングラインの当たりで考慮すべきこと

金型は高圧で数千、数万ショット成形します。パーティングラインに高い圧力かかることで、

凸凹になり、バリの原因になります

対策方法は、定期的に金型の当たりを確認します。パーティングラインに損傷がある場合は、

溶接を行い恒久的な対策で改善します。

まとめ

PEEK樹脂は、機械強度が高く、耐熱性、難燃性に優れる樹脂です。また、軽量であることから、金属やアルミニウムの代替品として使用されます。

PEEK樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良については、上述の通り、原料の予備乾燥や、加熱筒温度、金型温度の設定や、取扱いに注意が必要です。

また、リサイクル・粉砕材の使用は、樹脂物性を損なわないレベルで、使用することが大切です。上記を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。