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LCP樹脂(液晶ポリマー)物性と用途、取扱い方法について解説

LCP樹脂(液晶ポリマー)物性と用途、取扱い方法について解説

injection-molding

LCP樹脂とは

LCP樹脂は、耐熱性や、難燃性、成形性を兼ね備えた樹脂です。日本では、液晶ポリマーと呼ばれています。

耐熱性や難燃性があることから、自動車の電装部品に使用されます。
また高流動である特性を活かし、薄肉部品のコネクタやリレーの需要は高いです。しかし、高流動なため、成形品にバリやガスが発生しやすく、金型のメンテナンスが必要です。

電気、電子分野では無くてはならない高機能な樹脂です。原料価格が高価なため、より質の高い製造方法が求められます。

一般的なLCP樹脂の特性は、下記の通りです。

  • 耐熱性に優れる
  • 難燃性に優れる
  • 成形性が良い
  • 寸法安定性がよい
  • 電気特性に優れる
  • 耐薬品性に優れる

性質 / 特性

性質 / 特徴 備考 備考
分子構造 結晶性樹脂
収縮率 小さい 0.2~0.8%
褐色、乳白色
ガラス転移温度 112℃
耐衝撃性 × 弱い
耐熱性 220~260℃
耐候性 良い
電気的性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 アンモニアには弱い
寸法安定性 精密部品に適している
機械特性 強い
成形品の外観 良い

代表的な用途

LCP樹脂は、精密成形に適していることから、スマートフォンやタブレットのコネクタに

使用されます。

射出成形加工で使用されるLCP樹脂は、下記の通りです。

電気、電子や自動車業界において、下記の通りLCP樹脂が導入されています。

  • 電気、電子部品:コネクター、リレー、ボビン、スイッチ、カメラモジュール
  • 自動車部品:電装部品、エンジン周辺部品、ショックアブソーバー

LCP樹脂の成形加工時におけるポイント

LCP樹脂の加工ポイントは、下記の3つです。

  • 原料の予備乾燥
  • 加熱筒、金型温度設定
  • 金型のメンテナンス

原料の予備乾燥

LCP樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。

予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。

  • 乾燥温度:140〜160℃
  • 乾燥時間:4時間(最大24時間以内)

給水率が0.02%と非常に低いため、箱型乾燥機やホッパードライヤーで十分です。

加熱筒温度、金型温度設定

加熱筒温度

加熱筒温度は、一般的に 300〜400℃に設定します。かなりの高温になりますので、パージによる飛散やダンゴの取り扱いには十分注意が必要です。パージカバーをしっかりと閉めてパージ作業をすると共に、必要に応じてフェイスシールドや皮手袋の保護具を着用します。

金型温度

成形品の形状によりますが金型温度は50〜120℃に設定します。

金型のメンテナンス

加熱筒温度が非常に高い上、高流動のため、最終充填部にガスは溜まりやすいです。

金型のガスベンドは、立上げ前にきれいに掃除をして、常にガスを排出できるように

します。またエジェクタピンのクリアランス部にもガスが入り込みますので、定期的に金型を

バラして、メンテナンスを行います。

成形不良時対策

LCP樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。

よく発生する不良のポイントは以下の通りです。

ブリスター(ふくれ)の原因と対策

ブリスター(ふくれ)とは、成形中にガスを巻き込んでしまうことで、成形品に凸が出てしまう現象です。

原因と対策方法は、下記の通りです。

ガスベンドの掃除で考慮すべきこと

金型の最終充填部のガスベンドにガスが蓄積していくと、ブリスターの原因になります。

対策方法は、日常点検において、ブリスター不良が発生する前にメンテナンスすることで改善します。ガスベントの定期メンテナンスをしていない場合は、金型オーバーホールが有効です。

射出速度で考慮すべきこと

射出速度が速いことで、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ブリスターの原因になります。

対策方法として、射出速度を下げることでキャビティー内の流動性が下げ、ガスが逃げる余裕が生むことができます。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。

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バリの原因と対策

バリとは、金型が合わさるパーティングラインや、スライド入れ子、EJピン上に樹脂がはみ出してしまう事象です。

原因と対策方法は、下記の通りです。

保圧力で考慮すべきこと

保圧力が高いことで、必要以上の樹脂が充填され、バリの原因になります。

対策方法は、過充填が原因のバリに関しては、保圧を下げることで改善します。

高流動であることから、最初から保圧をかけず、5Mp単位で調整することがポイントです。

射出圧力で考慮すべきこと

射出圧力が高いことで、バリの原因になります。

対策方法としては、製品のバリ発生箇所の充填圧力を弱めることで改善します。多段制御が有効です。

ピーク圧力は、頭打ちの波形を見ながら設定することがポイントです。

パーティングラインの当たりで考慮すべきこと

金型は高圧で数千、数万ショット成形します。パーティングラインに高い圧力かかることで、

凸凹になり、バリの原因になります。

対策方法は、定期的に金型の当たりを確認することです。パーティングラインに損傷がある場合は、バリになった現物を見ながら、溶接を行い恒久的な対策で改善します。

ウエルドの原因と対策

ウエルドラインとは、金型キャビティー内で溶融樹脂の合流部分が線状の跡となる事象です。

原因と対策方法は、下記の通りです。

射出速度で考慮すべきこと

射出速度が遅いことで、キャビティー内で固化が始まってしまい、ウエルドの原因になります。

対策方法としては、射出速度を上げることで、キャビティー内の流動性が上がり改善します。

また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。

二手に別れた樹脂が、再び合流するまでの時間が長い時に有効です。

金型温度設定で考慮すべきこと

金型温度が低いことで、キャビティー内の流動性が悪くなり、ウエルドの原因になります。

対策方法は、金型温度を上げることでキャビティー内の流動性が上がり改善します。

金型温度を上げる時は、5~10℃ずつ上げていき、ウエルドの状態を確認します。

加熱筒温度設定で考慮すべきこと

加熱筒温度が低いことで、樹脂粘度が上がり粘りが強くなるので、ウエルドの原因になります。

対策として、樹脂温度を上げることで樹脂粘度が下がりスプルーから最終充填部まで

樹脂が流れやすくなり改善します。

まとめ

LCP樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。LCP樹脂は、耐熱性や、難燃性、成形性を兼ね備えた樹脂です。また高流動性で寸法安定性が良いことから、薄肉部品や精密部品の需要は高いです。原料の予備乾燥や、加熱筒温度、金型温度の設定は、生産前に確認が必要です。また、金型のメンテナンスを生産前や定期的に行うことで、安定した生産が可能です。上記を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。