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難削材ステンレスの特性とは|ステンレス切削時のよくある課題と対策

難削材ステンレスの特性とは|ステンレス切削時のよくある課題と対策

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ステンレスはSUS(Steel special Use Stainless)ともよばれ、強度や耐久性の向上を目的に、鉄にクロムやニッケルを混ぜた合金です。鉄に添加する元素を調整することでさまざまな特性を持たせることができ、その種類はJIS規格のものだけでも100種類以上。代表的なものに、クロムとニッケルを混ぜた「オーステナイト系」、ニッケルが含まれない「フェライト系」などがあります。 この記事では難削材として知られるステンレスの特性と、ステンレス切削時の対策について解説します。

ステンレスの特性

ステンレスは表面に酸化被膜が生成されることで、高い耐食性を持ちます。他の材料にくらべ寿命が長く、部品のメンテナンス・交換の頻度を減らすことが可能です。また鉄や鋼よりも強度が高いため、建築材料にも使用されるほか、耐熱性の高さから食器などの材料としても採用されています。 一方で、ステンレスを加工するのは簡単ではありません。ステンレスの加工には、プレスや溶接などさまざまな金属加工が用いられますが、なかでも切削加工においては難削材として知られています。

ステンレス切削時のよくある課題

ステンレスは、熱伝導率が低く切削加工で発生する熱(=切削熱)を逃がしにくいことから、切削点の温度が高くなりやすいことが特徴です。過度な切削熱は被削材や切削工具にも影響を与え、熱膨張により被削材の切り込み深さが大きくなったり、軟化した切削工具の寿命が短くなったりしてしまいます。特にオーステナイト系のステンレスは、切削時にマルテンサイト化(硬く脆い組織へ変化)することで加工硬化を起こしやすく、注意が必要です。 また展延性が高いため、切削時に材料が破断しにくく柔軟に変形してしまいます。このような特性を持つステンレスを切削する際は、以下のような課題が発生します。

熱伝導率の低さによって発生する課題

ステンレスの熱伝導率が低いことで、刃先の摩耗促進や加工精度の悪化といった課題が生じます。

刃先の摩耗が進む

ステンレスを切削する際に発生する熱は、切削時の条件にもよりますが800℃〜1200℃程度です。切削点の温度が高いと、切削時に溶けたワークの一部が工具に付着する「溶着」が発生しやすくなります。溶着は進行すると、刃先のチッピング(微小な欠け)を起こし、刃先の摩耗を促進してしまいます。

加工精度が悪化する

加工点に切削熱が集中することで、ワークであるステンレスに反りや歪みが生じます。 この状態で加工を続けると、反りや歪みが生じた分だけ加工精度が悪化してしまいます。

加工硬化によって発生する課題

ステンレスが加工硬化することで、工具の摩耗促進やワークの割れ・破断につながる可能性があります。

工具の摩耗が進む

工具の摩耗に影響を与える要因のひとつとして、工具材質とワーク材質の硬度の関係があげられます。ステンレスを切削する際、ワークが加工硬化することで、工具の摩耗が激しくなってしまいます。

割れや破断などにつながる

ステンレスは加工硬化することで延性が失われ、脆くなります。脆い材料は、割れや破断につながりやすいため、加工時の切削条件に注意が必要です。

展延性の高さによって発生する課題

ステンレスの展延性が高いため、切削時に発生する切粉の処理不良や工具の摩耗が発生します。

切粉の処理不良が起こる

切削時に発生するワークの切粉は、材料の展延性が高いとせん断しにくくなります。

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切粉が排出しにくくなることで、ワーク表面の傷や加工精度の悪化など、切粉を要因とするさまざまなトラブルが発生します。

工具の摩耗が進む

展延性が高いことで切削時にステンレスがちぎれにくくなるため、工具にかかる負荷が高くなり摩耗が進みやすくなります。

ステンレス切削時の課題別対策方法

ステンレスの特徴である熱伝導率の低さや加工硬化、高い展延性により生じる課題の対策方法について解説します。

熱伝導率の低さへの対策

熱伝導率の低さにより生じる課題の対策として、オイルミストの使用や切削条件の変更があげられます。

オイルミストを使用する

切削時にオイルミストを使用することで、切削点の冷却が期待できます。 切削抵抗の低減や冷却効果により、切削点の温度が上昇しにくくなるため、熱伝導率が低いステンレスでも、刃先の摩耗や加工精度の低下を抑制することが可能です。

切削条件を落とす

切削条件を落とすことで、切削点における温度上昇を防ぐことができます。 送り速度を遅くすることで加工時間は長くなりますが、温度上昇を抑制できるため、熱伝導率が低いステンレスでも、刃先の摩耗や加工精度の低下を抑制することが可能です。

加工硬化への対策

加工硬化で生じる課題の対策として、コーティング工具やオイルミストの採用があげられます。

コーティング工具を選定する

ステンレスの加工硬化による工具の摩耗を抑制するために、耐摩耗性の高いコーティング工具を選定します。特にコーティングを施した超高工具は耐摩耗性に優れているため、ステンレスの加工に最適です。

オイルミストを使用する

加工硬化は切削点の温度が高いと発生しやすくなるため、オイルミストを使用し冷却します。 切削抵抗を低減しながら、切削点の温度上昇を抑制することで、加工硬化の発生を低減します。

展延性の高さへの対策

展延性の高さに対する対策には、すくい角が大きい切れ味の良い工具の選定が重要です。 すくい角は30度以上が理想的ですが、一方で破損やチッピングが発生しやすくなるため、切削条件や切り込み量の調整に注意が必要です。

難削材ステンレスの特性まとめ

この記事では難削材であるステンレスの特性と、ステンレス切削時の課題と対策について解説しました。 優れた耐食性に加え、高い抗菌性でも注目されているステンレス。ステンレス加工のニーズが増えるなか、金属加工業界ではステンレスの特性を知り、さまざまな加工法を使い分けることが求められています。