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PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート)物性と用途、取扱い方法について解説

PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート)物性と用途、取扱い方法について解説

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PBT樹脂とは

PBT樹脂とは、高機能エンジニアプラスチックの1つです。ポリブチレンテレフタレートとも呼ばれており、一般的に、ガラス繊維を配合することで、機械的性能を強化しています。様々な分野で使用されており、一般的なPBT樹脂の特性は、下記の通りです。

 ・機械的特性に優れる

 ・電気的性質に優れる

 ・耐薬品性に優れる

 ・摩擦、耐熱性が良い

 ・加工性が良い

 ・寸法安定性が高い

耐衝撃性や、耐熱性、耐薬品性、電気特性に優れ、成形加工性、寸法安定性も良いことから、工業用製品の機能部品に用いられることが多くなっています。

性質 / 特性

性質/ 特徴 備考
分子構造 結晶性
収縮率 小さい 1.8~2.2%
白色
ガラス転移温度 高い 40〜60℃
耐衝撃性 強い
耐熱性 60〜140℃
耐候性 良好
電気的性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 強アルカリには弱い
寸法安定性 成形しやすい
機械特性 強い
成形品の外観 良い

代表的な用途

射出成形加工において、PBT樹脂が用いられる用途・製品には下記のようなものがあげられます。

  ・電気・電子部品:コネコタ、蛍光灯口金、ソケット、コピー機部品

 ・自動車部品:ワイヤーハーネス、ワイパー部品、駆動部の部品

 ・レジャー:スキー用品、釣り具

電気・電子部品や、自動車部品、レジャーまで、成形品の用途は多岐に渡ります。成形品の活用における特徴として、主に機能部品として完成品における内部に使われており、電気・電子部品、自動車部品では、特に電気絶縁性が求められる箇所を担います。

PBT樹脂の成形加工時におけるポイント

PBT樹脂の加工ポイントは下記の2つになります。

1.原料の予備乾燥

2.金型温度の成形終了時の手順

1. 原料の予備乾燥

予備乾燥が不足していると、成形品にシルバーが発生します。予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。

 ・適切な乾燥温度:120℃~130℃

 ・適切な乾燥時間:3時間~5時間

上記は、温度・時間の管理における大まかな推奨設定となります。加えて、下記の注意点にも考慮すると、より適切なPBT樹脂の予備乾燥に近づけます。

  ・100℃以下で、長時間乾燥を行っても効果がありません。

  ・150℃以上で、乾燥すると樹脂が変色します。

  ・ホッパーでの吸湿を防ぐ為、箱型乾燥機から運んで投入するよりも、ホッパードライヤーの使用がおすすめです。

  ・湿気の多い環境では、除湿乾燥機や、真空乾燥機など、乾燥能力の高い装置が有効です。

2. 金型温度と成形終了時の手順

PBT樹脂は、金型温度を高温で成形するため、成形終了時の適正な停止手順が重要です。手順を間違えると、やけどや怪我に繋がります。PBT樹脂を成形加工する際は、一般的に、金型温度は40℃〜80℃に設定します。

成形終了後は金型が高温になっていますので、下記の順序で金型温度を下げてから停止します。

金型温調機 温度が高い時の停止手順

 ・成形停止後、温調機の設定温度を20℃~25℃に設定します。

  ・金型温度が下がるまで温調機を循環させます。

  ・金型温度が下がったら温調機を停止して、各回路の水をエアーブローします。

成形不良時対策

PBT樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良とその対策ポイントは以下の通りです。

シルバーの原因と対策

シルバーとは、材料に含まれる空気やガスが成形品の表面上に現れ、筋状の模様になる事象です。シルバー発生の原因と対策方法は下記です。

1.材料乾燥不足によるシルバーは再乾燥で対応

シルバーの原因として1番多いのは、材料の乾燥不足です。立ち上げパージする際、パージ球全体に無数の泡状がある場合は、まず、材料の乾燥不足が疑われます。この場合は、先述の内容を参考に材料の乾燥を再度行うことで改善します。

2.部分的なシルバー発生の際は、サックバック量を減らす

部分的なシルバーが発生している場合は、サックバック量を減らしていく調整が必要となります。サックバック量が多いと、エアーを巻き込んでしまいシルバーの原因となります。調整の際には、1㎜単位で減らしていくと良いでしょう。

3.射出速度の速い箇所でのシルバー発生には、射出速度の調整で対応

射出速度が速い箇所で、シルバーが発生することがあり、この場合は射出速度を遅くして、ゆっくり充填させることで改善します。または、シルバーが発生している箇所の速度を低速にして、発生箇所を過ぎたところで、中~高速にする多段階制御も有効です。特に、製品形状が複雑な金型において、リブやボスを越えた周辺にシルバーが発生している場合に有効です。調整の際、射出速度を極端に低速にすると、速度変化位置において、湯ジワが発生したり、流動末端において、ショートが発生しますので、注意が必要です。

ヤケの原因と対策

ヤケとは、溶融樹脂がキャビティー内に充填される時に、キャビティー内に残存している空気が圧縮、燃焼し、成形品に黒く焦げた模様ができる事象です。最終充填部や、ガス抜けの悪い部分に発生します。

下記の3つの方法で改善します。

1. ガス逃げ不良のヤケには、ガスベンドの定期メンテナンスを行う

ガスベンドは、累積ショットが多くなると、樹脂から発生するガスが蓄積していきます。ガス逃げの悪い状態で成形すると、ガスヤケが発生しやすくなります。対策として、日常点検において、ヤケ不良が発生する前に、メンテナンスすることが重要です。なお、ガスベントの定期メンテナンスをしていない場合、まず金型オーバーホールを行うようにしましょう。

2. 流動末端や、ガス抜けの悪い箇所のガスヤケには、射出速度を下げる

流動末端、ガス抜けの悪い箇所に発生するヤケには、射出速度を下げることで対策できます。射出速度を下げることで、キャビティー内の流動性が下がり、金型内のガスが圧縮されることなくゆっくりと抜け、ガス焼けが改善します。また、金型が複雑な形状の場合は、多段制御が有効となります。なお、射出速度を下げることで、ショートや湯ジワといった別の不良が発生しやすくなるため、合わせて注意が必要です。

3. ガスベントの清掃、射出速度の調整でも改善しない時は、樹脂温度を下げる

樹脂温度を下げると、樹脂粘度が上がり、流れにくくなります。流れにくくなった分、ガスが抜けるまでの余裕がうまれ、ガス抜けが改善します。ガスベントの清掃や、射出速度を変更しても改善されない場合に有効です。

ガラス浮きの原因と対策

ガラス浮きとは、成形品の表面上にガラス繊維の模様が発生する事象です。キャビティー内の流動を速くして、ガラス繊維を散らすことで改善します。特に、樹脂の流れが悪い箇所、ガス逃げの悪い箇所などに発生するので、金型の形状を念頭に注意しましょう。下記の3つの方法で改善します。

1.成形品表面のガラス浮きが目立つ時は、射出速度を上げる。

ガラス浮き不良には、射出速度を上げることがポイントです。射出速度を、中〜高速に設定し、必要に応じて、多段制御を使用することにより改善します。バリやガスショートが発生しやすいフル充填部の射出速度は、低速にする必要が出てくるので、対応の際、注意するようにしましょう。

2.射出速度を上げても改善しない時は、金型温度を上げる

金型温度を上げることにより、樹脂の流動性が上がり、ガラス浮きが改善します。金型温度を上げすぎると、バリやガスショートになりますので、5℃刻みで温度を上げていき、成形品表面のガラス浮きの変化点を見るといった丁寧な作業も必要です。

3.射出速度、金型温度を上げても改善しない時は、樹脂温度を上げる

射出速度、金型温度変更が効果がない時は、樹脂温度を上げることがポイントです。樹脂粘度を下げることで、スプルーから最終充填部まで樹脂が流れやすくなり、ガラス浮きが改善します。急激な温度変化の際は、金型のカジリや、他の成形不良が発生しやすくなるので、5℃刻みで温度を上げていくなどし、変化点を確認するようにしましょう。

まとめ

PBT樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。予備乾燥や金型温度、成形終了時は特に注意して作業すると良いです。上記のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。