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AS樹脂物性と取扱い方法

AS樹脂物性と取扱い方法

injection-molding

AS樹脂とは

AS樹脂とは、アクリロニトリルスチレン樹脂(Acrylonitrile Styrene Resin)の略称で、アクリロニトリル、スチレン、ブタジエンなどのモノマーを重合させて作られる熱可塑性樹脂の一種です。海外ではSAN樹脂(Styrene AcryloNitrile copolymer)とも呼ばれます。AS樹脂は、透明性が高く、加えて、耐熱性や耐衝撃性が良く、成形加工性も優れているといった特徴があります。

透明で、キズがつきにくいことから、主にレンズや外観部品として使用されます。

また、強度を強化したい時は、ガラス繊維を組み合わせて使用することもできます。

一般的なAS樹脂の特性は、下記の通りです。

  • 透明性が高い
  • 耐熱温度が高い
  • 引っ張りに強い
  • 耐薬品性に優れる
  • 成形、加工性が良い
  • リサイクルしやすい

性質 / 特性

性質 / 特徴 備考 備考
分子構造 非結晶性樹脂
収縮率 小さい 0.2~0.7%
透明
ガラス転移温度 高い 112℃
耐衝撃性 強い
耐熱性 80℃~100℃
耐候性 良い
電気的性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 アルコールには弱い
寸法安定性 良い
機械特性 強い
成形品の外観 良い

代表的な用途

AS樹脂は、私たちの身の周りの様々な場所で使われています。透明性が高く、中に入れたものが確認できるので、容器やフタに使用されます。PCやアクリルより安価なため、強度が不要なメーターカバーや外観部品に使用されます。射出成形加工で使用されるAS樹脂は、下記の通りです。自動車部品から一般雑貨品まで、多岐に使用されています。

  • 自動車部品:メーターカバー、バッテリーケース、レンズ、ランプ
  • 家電部品:冷蔵庫のトレー、扇風機の羽、ミキサー、ジューサー、各種ハウジング
  • スポーツ用品: スキー板やスノーボードの板、ヘルメット、ゴーグル
  • 一般雑貨品:歯ブラシ、化粧品容器、ピアノの鍵盤、ガスライター

AS樹脂の成形加工時におけるポイント

AS樹脂の加工時に注意すべきポイントは、下記の3つになります。

  • 原料準備
  • 加熱筒、金型温度設定
  • 温調機温度設定

原料準備

AS樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。

  • 乾燥温度:75℃~90℃
  • 乾燥時間:3時間~4時間

注意点

  • 70℃以下で長時間乾燥を行っても効果がありません。
  • 100℃以上で乾燥すると、ペレット同士がくっつき固まってしまいます。
  • ホッパーでの吸湿を防ぐ為、箱型乾燥機から運んで投入するよりも、ホッパードライヤーの使用がおすすめです。
  • 湿気の多い環境では、除湿乾燥機や、真空乾燥機など、乾燥能力の高い装置が有効です。

加熱筒温度、金型温度設定

加熱筒温度は、一般的に200〜 250℃に設定します。低い温度で成形すると、充填された樹脂は途中で固化が始まり、最終充填部まで行き届かず、成形品はショートしてしまいます。加熱筒温度は、ランナー、ゲート、成形品の形状を考慮した上で、設定することがポイントです。

金型温度

成形品の形状によりますが金型温度は40℃〜70℃に設定します。金型温度を70℃以上に上げると、樹脂の流動が良くなり、バリ不良になる可能性があるので注意が必要です。

温調機温度設定

温調機は、一般的に40〜 80℃に設定します。温調機は、金型温度を一定に管理することで、品質のバラツキを安定させます。また、樹脂の流動性を良くしたり、光沢を高める時などに使用します。なお、成形品に光沢を求める場合は、高めに設定します。

成形不良時対策

AS樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。

異物の原因と対策

異物とは、黒点が、成形品の表面に現れる事象です。AS樹脂は透明なので、チリごみや、前の原料が異物として成形品に練り込まれてしまうと、不良となるので注意が必要です。よくある原因と対策方法は、下記の通りです。

原料投入時、段取り換え時に起きる異物

原因

作業着が汚れていたり、ホッパー各部に前材料の付着がある場合、異物の原因になります。

対策

作業前に、作業服にチリごみが付着していないか確認し、粘着ロール等で取り除きます。

ホッパーを掃除する場合は、上からばらしていき、パッキン部や隙間は重点的にエアーブローします。

成形中に起きる異物

原因

ASは、長期で成形するとシリンダーに炭化物が蓄積し、異物の原因になります。

対策

黒点の炭化物が頻繁に発生する場合、一旦成形を中断して、パージを行う必要が出てきます。パージをしても異物が抜けない場合は、スクリュー分解清掃が効果的です。

シルバー原因と対策

シルバーとは、材料に含まれる空気やガスが成形品の表面上に現れ、筋状の模様になる事象です。よくある原因と対策は、下記の通りです。

材料乾燥時に起きるシルバー

原因

材料の乾燥不足は、シルバーの原因になります。また、立ち上げパージする際、パージ球全体に無数の泡状がある場合は、材料乾燥不足が原因になります。

対策

再度、予備乾燥を行います。温度と時間を厳守して、材料の乾燥を十分行うことで改善します。

計量工程で起きるシルバー

原因

背圧が低く、スクリュー回転が速い場合、可塑化を行う際に、エアーを噛んでしまいます。エアーを噛んだ状態で、計量された樹脂を射出すると、シルバーの原因になります。

対策

背圧を高くして、スクリュー回転を下げることで、原料がゆっくり可塑化されます。ゆっくり可塑化することで、エアーを噛むことなく計量されシルバーが改善します。

加熱筒温度設定時に起きるシルバー

原因

加熱筒温度が高い場合、樹脂粘度が下がり樹脂分解が起こり、シルバーの原因になります。

対策

加熱筒温度を低くすることで、樹脂粘度が上がり、樹脂の分解を低減させ改善します。成形する時は、メーカー推奨温度の一番低い温度から成形可能か試していきます。

注意点としては、設定温度を低くするとキャビティー内の流動性が下がります。

流動末端のショートに注意が必要です。

湯ジワの原因と対策

湯ジワは、ゲート付近または、最終充填部に発生します。成形品の表面が、波模様になる事象です。よくある原因と対策は、下記の通りです。

射出速度による湯ジワ

原因

射出速度が遅い場合、流れが遅くなり、湯ジワの原因になります。

対策

射出速度を上げることにより、キャビティー内の流動性が上がります。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。

加熱筒温度設定による湯ジワ

原因

加熱筒温度が低い場合、樹脂粘度が上がり、樹脂の流動性が下がるのが湯ジワの原因になります。

対策

加熱筒温度を高くすることにより、樹脂粘度が下がり、スプルーから最終充填部まで樹脂が流れやすくなり改善します。注意点としては、加熱筒温度を上げることにより、ガスが発生しやすくなります。

金型温度設定による湯ジワ

原因

金型温度が低いと、樹脂の流れが悪くなり、湯ジワの原因になります。

対策

金型温度を上げることにより、流れが良くなり改善します。

まとめ

AS樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。AS樹脂は、透明性を活かしたレンズや、容器、フタなどに使用されます。自動車部品や、家電部品で使用され、私たちの生活では欠かせない樹脂です。また、AS樹脂は、環境負荷の低い樹脂として注目されています。再生可能な原料を使用したAS樹脂も開発されており、今後ますます需要が増えることが期待されています。しかし品質管理には注意が必要であり、原料準備や、加熱筒温度、金型温度、温調機温度に気をつけて加工を進めていきましょう。上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。