コラム記事一覧arrow
切削加工におけるチッピングとは|チッピング発生の原因と対策

切削加工におけるチッピングとは|チッピング発生の原因と対策

cut

切削加工におけるチッピングとは

チッピングは、切削工具の刃先が細かくギザギザになる等、欠損することを言います。チッピングの原因には超硬工具やセラミック工具などのもろい工具が、切削力や機械振動などの急激な変動を受けたり、切削温度の大きな変化を受けることが挙げられます。チッピングなどの工具異常はその後の大きな欠け(欠損)や加工精度の低下を招くため、未然に防止する必要があります。

この記事では切削加工におけるチッピングの原因と、その対策について解説します。

摩耗とチッピングの違い

摩耗とチッピングはどちらも正常な切削を妨げる工具異常ですが、摩耗は刃先が徐々にすり減っていくことを指します。代表的な摩耗の種類には、フランク摩耗とクレータ摩耗があります。フランク摩耗とは、すくい面に対して横側の面(逃げ面)に発生する摩耗のことを指します。逃げ面側の摩耗は、逃げ角が弱いために多く発生します。そのため、機械角度や工具での加工角度の変更が対策として必要となります。一方、クレータ摩耗は「すくい面摩耗」とも呼ばれ、工具材種が柔らかすぎたり、切削熱が高過ぎることが主な原因とされます。すくい面は、切屑との間で常に厳しい摩擦熱にさらされるため、摩耗痕としてすくい面上に窪みが生じやすくなっています。

これに対して、チッピングは後述の理由により、刃先に機械的な衝撃が加わることで工具欠損が生じる現象を指します。

チッピングの原因とは?

チッピングの発生には、工具材質や切削条件が大きく影響します。チッピングは送り量が大きい、または小さすぎる場合や切削工具が硬く、より刃先が鋭利であると発生します。その対策に当たっては、被削材に対する工具の相対的な硬度や送り量といった要素に注意する必要があります。

使用する工具がワークに対して硬過ぎるため

硬い工具ほど耐摩耗性に優れますが、硬度が高くなるにつれて、じん性(工具のねばり強さ)が弱くなってしまいます。加工ワークに対して工具が必要以上に硬い場合、同時に必要なねばり強さを欠いてしまうため、チッピングが生じやすくなります。

特に超硬やセラミック工具などの硬い工具は、切削中の衝撃や振動に弱く注意が必要です。

insert_no12_cutting_process_column

送り量が大きいため

送り量が大きい場合、工具にかかる負荷や摩擦熱が増えチッピングの原因となります。また切削抵抗によるビビりや処理しきれない切粉の発生で、工具に断続的な衝撃が加わりチッピングを引き起こすこともあります。

刃先に溶着した構成刃先が原因となるため

刃先に溶着した構成刃先が脱落すると、構成刃先と一緒に刃先も剥がれてチッピングを引き起こすことがあります。

構成刃先はチッピング以外にも寸法精度の低下を引き起こすため、構成刃先が発生しやすい軟鋼などの延性材料(伸びやすい材料)では、特に注意が必要です。

チッピングに起因して発生する課題

チッピングに起因して発生する課題には、以下のようなものが挙げられます。

  • 仕上げ面の劣化
  • 工具折損

仕上げ面の劣化

チッピングが発生したまま加工を続けると切削抵抗が高くなり、仕上げ面が劣化します。

仕上げ面が光沢のない梨地のような表面になる場合は、チッピングや構成刃先が発生している可能性があるため、刃先の状態を確認する必要があります。

工具折損

チッピングが発生したまま加工を続けてしまうと、チッピングした箇所からき裂が入り工具折損につながります。

加工中の工具折損を未然に防ぐためにも、チッピングの事前対策が必要です。

チッピング発生の対策方法

チッピングの発生を防止するためには、工具選定や段取りなど現場での対策が欠かせません。上述したチッピング発生の原因となる代表的な3ケースごとの対策方法は以下のようなものがあります。

工具選定によるチッピング対策

工具材質や刃先形状など、工具選定を見直し対策をします。

工具選定ではワーク材質との相性と、加工効率・品質とのバランスが重要になります。

軟らかい工具材質に変更する

衝撃の大きな断続加工では軟らかい工具材質に変更するなど、加工方法に合わせた工具材質を選定しチッピングを防ぎます。

工具材質が軟らか過ぎると、切削熱で工具が軟化し塑性変形してしまうため注意が必要です。

超硬などの硬い工具を使う場合は、コーティング処理を施すことで衝撃や振動への耐性が上がりチッピングを防ぐことができます。

刃先先端の形状を変更する

刃先が鋭利なほどチッピングを起こしやすいため、刃先先端の形状をコーナーR(丸み)付きのものに変更することでチッピングを防ぎます。

刃先の強度を保つホーニング(刃先の面取り)や、ランド(縁取り)の付いた工具も効果的です。ねじれが強いエンドミルは基本的には、アルミや銅などの柔らかい金属の加工に適しているので、ステンレスなどの硬い金属に使用しているのであれば、ラジアスエンドミルなどのコーナーにRがついている工具に交換したほうがいいでしょう。

親和性の低い工具に変更する

ワークとの親和性(結びつこうとする性質)が低い工具で構成刃先の発生を抑え、チッピングを防ぎます。

鋼材の場合、コーティング処理を施したコーテッド工具やサーメットがおすすめです。

特にサーメットは、鉄との親和性が低く鋼材の仕上げ加工に最適です。

切削条件によるチッピング対策

切り込み量や回転数など、切削条件を見直し対策をします。

切削条件の調整は、加工効率や仕上げ面の品質にも影響するため、バランスが重要です。

切り込み量を小さくし切削抵抗を減らす

切り込み量を小さくし切削抵抗を減らすことで、チッピングを防ぎます。

切削抵抗の低減は、ビビりの抑制や切粉の排出向上にもつながります。

セラミック工具やサーメットなど、チッピングを起こしやすい硬い工具を使う場合にも効果的です。

クーラントを使用し切削抵抗を減らす

クーラントによって潤滑性を上げることで、チッピングを防ぎます。

切削点の発熱を抑えることで、急激な温度変化によるチッピングの防止も期待できます。

切削温度が下がり過ぎると、構成刃先の発生につながるため注意が必要です。

回転数を調整し切削抵抗を減らす

一般に工具やワークの回転数が低いほど切削抵抗が減り、チッピングが発生しにくくなります。

低速では構成刃先が発生しやすくなるため、実作業の際は、様子を見ながら少しずつ回転数を落とし調整します。

チッピング発生の原因と対策まとめ

この記事では切削加工で発生するチッピングの原因と、その対策について解説しました。

機械加工では必ずと言っていいほど発生するチッピングですが、例え小さなチッピングでもやがて思わぬ機械停止につながることがあるため、早期発見が重要です。

特に、CNC工作機械による省人化ラインでは、チッピングなどの工具異常をいかに検出するかが、生産性向上の課題となっています。