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インコネルの特性とは|インコネル加工時のよくある課題と対策

インコネルの特性とは|インコネル加工時のよくある課題と対策

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インコネルとは、ニッケルを主体として、鉄、クロム、モリブデンなどを添加したニッケル合金です。インコネルは添加された材料の含有量に応じて、インコネル600, 718, X750などに分類されます。インコネルという名称は、スペシャルメタルズ社(旧インコ社)の商標です。

耐熱性や耐食性、耐酸化性などに優れ、高温の金属にとっては厳しい環境においても優れた耐久性を保つため、航空宇宙産業、プラント産業などで採用されています。一方で、熱伝導率が悪いこと、高温強度が高いことから、機械加工においてインコネルは加工難易度が大変高い金属として知られています。この記事ではインコネルの特性と、加工のために押さえておきたいポイントについて解説します。

インコネルの特性

インコネルは高温環境下での機械的強度や耐蝕性に優れており、厳しい環境のプラント設備や航空宇宙関連製品への採用が進められています。

切削加工をする際に注意が必要な特性としては、以下のようなものがあげられます。

  • 耐熱性が高い
  • 加工硬化が起こりやすい

耐熱性が高い

一般的に金属は、高温環境下では材料を構成する原子どうしの距離が伸びることで熱膨張し、強度が低下します。インコネルは、この傾向が他の金属・合金に比べて小さいため、高温環境下での強度が低下しにくい点が特徴です。高い強度を保てる温度は、インコネルの種類にもよりますが約700度といわれています。

加工硬化が起こりやすい

金属に外力が加わった際に発生する変形は、弾性変形と塑性変形に分類され、一定以上のひずみが生じると弾性変形から塑性変形に移行します。加工硬化は、塑性変形により原子の配列が乱れることで、弾性変形も塑性変形も起こりにくくなっている状態です。

インコネルは、加工硬化が起こりやすい材料といわれています。

刃先に溶着しやすい

インコネルはドリルなどの工具素材との配合性が高いため、加工中に生じる粉が刃先に溶着し、刃物の切れ味が劣化し、仕上がりが悪くなることがあります。また、切れ味が劣化することで加工熱が発生しやすく、工具の破損の原因にもなります。そのため、溶着を防ぐためにクーラントや切削液を使用し、加工熱を抑える工夫をする必要があります。

インコネルの種類

インコネルには多くの種類が存在します。用途や満たすべき要件によって異なります。今回は、一部を紹介させていただきます。

種類 特徴
インコネル600 高温での耐酸化性、耐腐食性に優れています。
インコネル601 インコネル600にアルミニウムを添加し、耐酸化性、耐浸炭性を向上させた合金です。
インコネル625 低温でも優れた強度と靭性を持つことで知られる。また、耐食性や高温強度にも優れています。
インコネル718 高温でも強度が高く、耐食性に優れていることで知られています。溶接性も良く、航空宇宙用途に多く使用されています。

インコネルの加工特性によって発生する課題

インコネルを材料とした機械加工を行う際は、耐熱性の高さや加工硬化が起きやすい特性によっていくつかの課題が想定されます。

耐熱性が高いことで発生する課題

インコネルの耐熱性が高いことで、加工熱が逃げにくい点や母材が軟化しないという課題が発生します。

加工熱が逃げにくい

切削加工を行う際に、工具と母材の摩擦によって発生する熱は、切りくずや母材に伝達して放出されます。しかし、インコネルは耐熱性が高く熱伝導率が低い特徴を持っているため、加工時に発生する熱が母材を伝達して放出されにくく、工具の刃先に集中します。高温で加工を継続することで、工具の摩耗が激しくなり破損につながりやすいため、工具寿命が低下する要因になります。

母材が軟化しない

インコネルは、700度程度の高温環境でも機械的強度が維持されるため、切削時に発生する加工熱で母材が軟化しません。切削抵抗が高い状態で加工し続ける必要があり、工具の摩耗やチッピングなどの課題が生じます。

加工硬化が生じやすいことで発生する課題

加工硬化が生じやすいインコネルの加工には、工具の摩耗や加工面の荒れなどが課題としてあげられます。

工具が摩耗しやすい

一般的に切削加工では、加工する母材の硬度が高いほど工具の摩耗が大きくなります。インコネルを加工する際には、加工時に工具と接触する加工面が硬化してしまうため、工具の摩耗が進行しやすくなります。

加工面が荒れやすい

母材に加工硬化が生じることで、加工工具にチッピングなどが生じます。チッピングが発生することで切削抵抗が高くなり、母材の加工面が荒れやすくなってしまいます。

インコネル加工時の課題別対策

難削材であるインコネルを加工する際に生じる課題の対策を、「耐熱性」「加工硬化」の2つに分けて解説します。

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耐熱性に起因する課題を解決するために

インコネルの耐熱性で生じる課題を解決するためには、切削速度に応じた対策が必要となります。

低い切削速度で加工する場合

低い速度で切削する場合には、硬度の高い超高合金製の切削工具を選定します。 加工時に発生する摩擦熱の影響を低減するために、高圧のクーラントを採用し工具の刃先を冷却しながら加工を行うことで、低い温度において工具とインコネルの硬度関係を維持しながら加工を行えるため、工具の異常摩耗を避けることができます。

高い切削速度で加工する場合

切削速度を高めて加工を行う場合には、低い切削速度の場合とは異なる対策が効果的です。インコネルの機械的強度が高いまま維持される700度よりも高い温度で加工を行うことで、耐熱性に関する課題を解消します。 工具は耐熱性に優れたセラミック工具を選定し、切削速度500m/min以上で加工を行うことで、超高温状態での切削加工が可能です。高温状態では、セラミックとインコネルの硬度差から、耐摩耗性などの課題を解消できます。

加工硬化に起因する課題を解決するために

加工硬化によって生じる課題を解決するには、切削工具の耐摩耗性を向上させることが効果的です。 耐摩耗性を向上させるためにコーティング処理を施した超硬合金製の切削工具を使用すれば、耐摩耗性の向上に加え、チッピングなどによる加工面精度低下の対策にもつながります。