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食品容器で重宝。ポリスチレン樹脂(PS)射出成形時のポイント

食品容器で重宝。ポリスチレン樹脂(PS)射出成形時のポイント

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PS樹脂とは

PS樹脂とは、ポリスチレン樹脂やスチロール樹脂とも呼ばれます。PS樹脂は「5大汎用プラスチック(PE(LDPE、HDPE)、PP、PVC、PS)」の1つです。

一般にPS樹脂の特性として、下記が挙げられます。

 ・安価

 ・成形性が高い

 ・寸法安定性が高い

 ・軽量

 ・剛性が高い

 ・電気を通しません

 ・一定の耐久性がある

 ・透明性に優れる

PS樹脂は、食品衛生性面でも大変優れていることから、スーパーやコンビニ等の食品トレイや容器で重宝されています。製造された容器の一部は回収され、リサイクルされている ことで注目を浴びています。

また、PS樹脂は成形性や寸法安定性も優れています。更に安価で生産性が高いという理由で、家電製品や自動車部品等まで広く使用されています。

性質 / 特性

性質/ 特徴 備考
分子構造 結晶性樹脂
収縮率 小さい 0.4~0.7%
透明
ガラス転移温度 低い 90℃
耐衝撃性 割れやすい
耐熱性 60℃~80℃と低い
耐候性 容器など
電気の性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 軟化して溶ける
寸法安定性 成形しやすい
機械特性 用途による
成形品の表面耐傷 金型温度が高いと良くなる

代表的な用途

射出成形加工で使用されるPS樹脂は下記の用途での利用が代表的です。

 ・家電製品:冷蔵庫トレー、エアコン、テレビ、照明器具、CDケース

 ・自動車:メーターカバー、ランプレンズ

 ・建築:浴室壁材

 ・医療:シャーレ

 ・スーパー:食品トレー、カップ麵の容器

私たちが日常生活でよく使用している製品で利用されています。

PS樹脂の特徴を活かした用途例

PS樹脂は、経済的に安価であること、成形性、軽量、寸法安定性、食品衛生性の良さから幅広く使用されています。 特に食品衛生分野の使用率が高く、容器類、食品トレイ、ランチボックス、カップめん容器に 使用され、スーパーやコンビニ等では無くてはならない樹脂になります。 また、優れた電気絶縁性があるので、家電製品や自動車のカバーやレンズにも使用されています。

用途に応じて異なる機能を持つPS樹脂

PS樹脂は、その特徴や機能から、おおまかにGPPSとHIPSの2種類に分類されます。

一般的用途の「GPPS」

「General Purpose」(一般的用途)の頭文字をとり、GPPSと略します。

特徴

透明である。 寸法安定性が優れている。 流動性が良い。 着色性が良い。 食品衛生性が良い。

性能上の注意点

耐衝撃性が悪い。 耐油性が悪い。 有機溶剤性が悪い。

用途

CDケース、食品容器、家庭用品に使用される。

また、PSには発泡PSと呼ばれる種類があり、PS樹脂に発泡材を混ぜて成形加工されます。発泡PSを使用することで、成形品は軽量化され、クッション性、断熱性に優れます。この発泡PSは真空成形法にて成形します。 食品衛生性が良いことから容器類、食品トレイ、ランチボックス、カップめん、容器、断熱材などの成形に用いられています。

衝撃強度を強化された「HIPS」

「Hgh Impact」(高衝撃)の頭文字をとり、HIPSと略します。

特徴

ゴムを配合して耐衝撃性を強化したブタジエンのポリマーアロイです。HIPSはゴムを配合していることから透明性が失われますが、耐衝撃性が大幅に改良されています。

用途

エアコンハウジング、事務機器ケース、ヨーグルトや乳酸菌飲料水の食品容器に使用されます。

PS樹脂の成形加工時におけるポイント

PS樹脂は、クラックしやすい特性があります。加熱筒設定と金型温度設定がポイントになります。

加熱筒設定で考慮すべきこと

加熱筒温度は、一般的に190〜 220℃に設定します。

低い温度で成形すると、充填された樹脂は途中で固化が始まり、最終充填部まで行き届かず、 成形品はショートします。 加熱筒温度は、ランナー、ゲート、成形品の形状を考慮した上で、設定することがポイントです。

金型温度設定で考慮すべきこと

成形品の形状によりますが、金型温度は40℃〜50℃に設定します。50℃以上 上げると流動が良くなり、バリ不良になる可能性があるので注意が必要です。

成形不良時対策

PS樹脂は非結晶性樹脂です。取扱い方法は比較的易しい樹脂です。 PS樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。 よく発生する不良のポイントは以下の通りです。

ウエルドラインの原因と対策

ウエルドラインは、溶融樹脂がキャビティー内で分岐し、再び合流する時に出る線状のマークです。 一般的な成形法の場合、ウエルドラインを完全に無くすことはできません。 ウエルドラインの強さを弱めるか、流れ方を変えウエルドラインの発生位置をずらすことで見えにくくします。 下記の3つの方法で改善します。

樹脂温度を上げる

樹脂温度を上げることにより、樹脂粘度が下がり、スプルーから最終充填部まで 樹脂が流れやすくなり、改善します。

金型温度を上げる

金型温度を上げることにより、樹脂の固化速度を遅らせ、改善します。

射出速度を上げる

射出速度を上げることにより、キャビティー内の流動性が上がります。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。

注意点としては、射出速度を上げることにより、ウエルドラインの位置が変わります。外観上、問題がある場合や、強度が求められる場合は注意しましょう。

ヒケの原因と対策

ヒケは、成形品にできた凹みのことです。肉厚部(リブやボス)や流動末端部に発生しやすい事象です。ヒケの原因は、樹脂の収縮によるものです。肉厚部、流動末端部では、他に比べて収縮量が大きくなるので、凹みになります。2次圧(保圧)で収縮分を補填し、密度を上げることがポイントとなります。

クラックの原因と対策

クラックは、成形品を取り出すエジェクター工程において、成形品の離型スタート位置から、真空状態中まで離型抵抗が高い為に、成形品に亀裂、割れが入る不良事象です。

エジェクターを前進する時、多段制御を使用することで改善します。 エジェクター多段制御とは、エジェクター位置0㎜から前進限までの距離を段階に応じて設定することです。 離型スタート時は、エジェクター速度を低速にし、成形品が真空状態から開放された区間で、中速にするなど、成形品の離型状態により細かく調整します。

まとめ

PS樹脂の取扱い方法や加熱筒、金型の設定、よく発生する不良について説明しました。 PS樹脂は、非結晶樹脂ですが、成形条件は比較的易しいです。成形品の形状に応じて、加熱筒温度や、金型温度の設定をします。離型時にクラックにならないように、十分注意が必要です。上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。